カンボジアには、日本の「お盆」によく似た、先祖供養のための非常に重要な伝統行事があります。それが「プチュンバン(Pchum Ben)」です。国民の大多数が敬虔な仏教徒であるカンボジアにおいて、プチュンバンはクメール正月と並ぶ大切な期間であり、国全体が特別な雰囲気に包まれます。
この記事では、カンボジアの人々の精神文化に深く根付いたプチュンバンについて、その意味や習慣を詳しくご紹介します。
プチュンバンとは?
プチュンバンは、クメール語で「集まって(プチュム)」「ご飯のお団子を作る(バン)」という意味を持ちます。その名の通り、人々がお寺に集まり、先祖のために食事をお供えする行事です。
この行事は合計15日間にわたって行われ、地獄の門が開き、先祖の霊が子孫からの供養を受け取りに現世へ戻ってくると信じられています。特に、生前の行いが悪かったために餓鬼道に落ちたとされる霊も、この期間だけは供物を受け取ることが許されると考えられており、子孫が供養を怠ると先祖の霊は怒り、家族に災いをもたらすと言い伝えられています。
プチュンバンの時期
プチュンバンはクメール暦(仏暦)の10月に行われるため、太陽暦では毎年日付が変わります。通常は9月下旬から10月中旬にあたります。15日間のうち、最初の14日間を「カン・バン」、そして最終日を「プチュンバン・トム(大きなプチュンバン)」と呼び、この最終日が最も重要な日とされています。
ポイント:プチュンバンの期間中、特に最終日は祝日となり、多くの企業や学校、官公庁が休みとなります。都市部で働く人々は一斉に故郷へ帰省するため、交通機関は大変混雑します。
期間中の過ごし方
カン・バン(最初の14日間)
この期間、人々は夜明け前に起き、お米を蒸して丸めたお団子「バイ・ベン」や、お菓子、果物などを用意してお寺へ向かいます。お寺では、僧侶にお供え物を渡し、お経をあげてもらいます。また、境内にお供え物を撒くことで、7世代前の先祖まで供養できると信じられています。人々は期間中に少なくとも一つのお寺、できれば7つのお寺を回ると良い功徳を積めると考えています。
プチュンバン・トム(最終日)
最終日は、プチュンバンの中でもクライマックスです。この日は国民の祝日となり、多くの人々が故郷に帰り、家族や親戚一同で盛大にお寺を訪れます。人々は新しい服を着て、より豪華な料理やお供え物を持参します。お寺は、家族の絆を再確認し、地域社会の交流の場ともなり、一年で最も活気に満ちた雰囲気に包まれます。
プチュンバンのお供え物
プチュンバンで特徴的なお供え物には以下のようなものがあります。
- バイ・ベン:もち米や白米をココナッツミルクで炊き、丸めたお団子。先祖が食べやすいように小さく丸められています。
- ヌン・アンソーム:もち米と豚肉やバナナなどをバナナの葉で包んで蒸した、カンボジア風のちまき。
- その他:様々な種類の伝統菓子、果物、お茶、線香、ろうそくなど。
これらの供物は、僧侶への食事としてだけでなく、先祖の霊が受け取るためのものとして、心を込めて準備されます。
まとめ
プチュンバンは、単なる宗教行事ではありません。それは、先祖への敬意、家族の絆、そして功徳を積むというカンボジアの人々の価値観が凝縮された、国の文化そのものです。この期間にカンボジアを訪れることがあれば、店舗の休業など不便な点もあるかもしれませんが、敬虔な祈りを捧げる人々の姿や、国全体を包む厳かで温かい雰囲気に触れることで、カンボジアという国をより深く理解する貴重な体験となるでしょう。

